第一章

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『大泰祭』 それは百年に一度行われる神祭(カミマツリ)。 遥か遠い昔に人々と『約束』をした者がいる。本当の名は伝えられていないが、暦神を産んだとされている『何か』を人々は『泰神(ヤスラギノカミ)』と呼んだ。 その泰神を奉る『大泰祭』 普段では一同に会さない十二の暦神全員が集まり、親である泰神を讃え祈る祭。 聖なる土地であり、現在はこの世界で最も長く栄え力を持つ『暮国(クレコク)』の首都『重(カサネ)』で行われる。長月の頃に開催される祭だ。 「大泰祭か……」 コオリが無意識に呟く。 「最大のお祭りだね。この世界に住む様々な民が訪れ、約一ヶ月近く行われる毎夜の宴、毎夜の祈り。毎夜の夜店っ」 少し浮きだった口調でハチミツが言う。 コオリは寄せていた眉を少しほころばせ笑う。 「ハチミツは呑気だね」 「だってっ!前住んでた村の百十歳のババ様が『もうちょっとでお祭りぞっ、ハチミツ』って言っては百年前の大泰祭のお話をいつもしてたんだもんっ!」 少しすねた口調でハチミツは言い、そっぽを向く。 「ちなみに暦神は神殿から外に出れない決まりなのは知っているのかな?」 コオリの言葉にハチミツは驚いた表情のまま固まる。 そして段々と悲しみを表す顔になっていった。 コオリは申し訳なさそうな表情と声で言う。 「やっぱり知らなかったんだね。でも決まりなんだよ。俺達が大勢の人々の前で、無防備に姿をさらすのは危険なんだ」 力なく頷くハチミツ。 そう。私はもう『人』であった時とは違う。 『暦神』なんだ。 ハチミツはつい半年前の通過儀礼式で『暦神』になったばかり。だから未だ『人』であった自由な頃の感覚を引っ張ってしまっている。 「でも。他の暦神とは逢う事はできるし、少しなら話もしていいとは思うよ」 落ち込むハチミツを不憫に思い、コオリが明るめの声で言う。 「そう……だね。ここを離れて、百年に一度のお祭りの場所に行けるだけでも、私達は特別なんだ。落ち込むのはおかしいよね」 納得なんてできてないだろうに、健気に前向きな発言をするハチミツ。 コオリはそっとハチミツの頭を抱きしめた。
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