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「一月姫様~!一月姫様~!どちらでございますか~!?」
あまり緊迫感のない声が山に響く。
サラサラと風になびく少し長めの黒髪。考えていることがすぐに表れてしまうつぶらな黒耀石のような瞳。
細身ながらもガッシリとした体躯に、ゆったりとした着物をまとった青年は、大声で呼びかけながらも、その声には楽しさが含まれていた。
彼が今捜している主(アルジ)はとんでもなくじゃじゃ馬で跳ねっ返りで日常をよく乱す人だ。
勉強の最中にいなくなるのはしょっちゅうだし。
説教をすればしおらしくシュンとなる癖に、その夜寝てしまえば翌朝にはケロリとし。
そしてまた家庭教師の目を盗んで館を抜け出す。
その度に主を連れ戻す役目はいつも彼だ。
彼は思う。
もちろんイヤではない。むしろ……嬉しい位だ、と。
退屈な日々に彩りを加えてくれる主を、しょうがないなと呆れながらも、彼は彼女が可愛くて可愛くて仕方がなかった。
まるで毎日隠れんぼの鬼をしている気分で、彼は彼女の名を呼ぶ。
捜し続ける。
それはまるで契り。
この世界が生まれ落ちたときからの約束事のように。
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