第二章

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久しぶりの外界……。 馬車の規則正しい、けれどうるさい車輪の音でさえ、何だか楽しい。 着慣れない重たい数枚重ねの着物がサラサラと鳴る。普段ならこんな服ヤだっ!って駄々をこねるところなんだけど、今は我慢できる自分に苦笑いだ。 あっ。コオリがこっち見たっ。視線を下にしてるから表情はよくわかんないけど、きっとあれは笑ってる。だって肩が震えてるもん。あっ、タナ先生となんか喋ってる。きっと私の悪口だ。 でも。まぁ良いか。だって久々の山の外。街中だ。馬車の小窓から見える人々は、着古した汚い服を着ている人もいれば、立派な服を着て偉そうに歩いている人もいる。 貧富の差は哀しいけれど、館とは違うんだなって実感できる。 善くも悪くも不公平な世界。 安定はなくても自分の意志で人生を自由に左右できる世界。 変化を意志で選べる世界なんだ……。 懐かしい、と感じてしまうのは感傷なのかな? すでにこの世界とは別の場所で生きてしまった証。 ただの『ハチミツ』から。 『一月姫』としての生活が身についてしまった寂しさなのかな? それでも。 それでも。 このワクワク感は治まらない。 心のどこかに開いてしまった穴からは寂しさと、そして同時に嬉しさも溢れ出してきて、笑顔になってしまう。体が自然に揺れてしまう。 止まらない。 ああ。やっぱり私はこの世界が好きだ。 この変化のある世界の中で暮らしたい。 当たり前の生活を。 護られるだけの存在よりも。 安定よりも自由を。 手に入れたい……。 館にいるときは、それは『運命』なんだと受け入れたつもりだったのに。 大好きなコオリとなら、ぬるま湯のような優しく変わらない生活も良いものだと、思っていたはずなのに……。 あまりの感情の変化にハチミツは驚きながらも、冷静に分析してる自分がいるのに気付いていた。 だって。私は本当に納得してない。コオリの考え方を――『暦神』が人々の幸せの形であるということを――理解はできていても納得はしてない。 自分の答えを。 心から納得して受け入れれるだけの強さを。 私は手に入れてない。 だから揺れる。 グラグラと揺れてしまうんだ。
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