第二章

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タナはコオリの問いに薄目を開けニヤリと笑う。 「俺はお姫さんの家庭教師であって、おまえさんのじゃない。自分で考えな」 そしてそのまま目を閉じてしまい、話しかけるなと言わんばかりに軽い寝息をたて始めた。 コオリは軽い溜息をつく。 このタナという家庭教師は少々型にはまらない性質をしている。 誰もがコオリを『睦様』と呼ぶなか名を気安く呼び。さすがにハチミツには『お姫さん』と呼びかけるが、それも敬意からではなくどちらかというと馬鹿にしているふしがある。 しかしタナの知識――数学や天文学、特に古代史や歴史・神学――はかなり精通しており、たぶん王族の家庭教師としてもやっていけるほどの力量を持っていた。 暦神に関しての知識も半端ではなく、コオリは何度もタナに教えを請うている。 そのたびに今の会話のように触りだけ言ったまま、後は自分で考えろと突き放されてしまうのだが……。 それでも得ることは多く。 コオリに熟考する、ということを身につけさせていた。 暦神は受け身……。 確かにそうだろう。 人々の好意を受け取りながら生きる存在。 ハチミツはそれを『否定』しているとタナは言う。 確かにその傾向はある、とコオリは思う。 『肯定』したいと思っていても、すぐに揺れ動くハチミツの意志。タナに言われなくても、それを修正していくこと。それをコオリは自分の使命だと思っていた。 コオリは再び溜息をつく。 そして未だ小窓の外を眺めるハチミツの傍に移動した。
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