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「これは『睦月』の暦神を示しす曲だ。神殿の敷地に入ったんだな」
眠りから覚めたタナが、大あくびをした後に言う。
「タナ先生、『睦月』の曲って何?」
ハチミツがきょとんとした表情で聞く。
「暦神を表すものは多いんだ。今の曲もそうだし。『色』だってある。睦月を表す色は紺碧。如月は紅白というようにな。
あげていくとキリがないけど、そうやって……人々の生活や習慣に密着した様々なもの。それらと暦神をくっつけることによって『泰神』は暦神の存在を定着させていった。今はそんなことをしなくても良いくらい人々に浸透してるから、そういうことを知っている者も少ないがね」
「へえ。各暦神にはそれぞれ呼応した『何か』があるんだ」
ハチミツは感心したように呟く。タナはそれを聞いてニヤリと笑った。
「姫さん。覚悟しときなよ。今日からの『大泰祭』はそんな決まり事の嵐だぞ。
着る服の色から風呂に入る作法までいっぱいある。覚えないといけない事も多いしな」
「えっ!?」
「その勉強もしようとはしてたんだが、姫さんは逃げ回っていたからな。教える機会がなかった。ちゃんと覚えて恥をかかんことだ。ここにはコオリの両親もいるし、親族も多い。姫さんの恥はコオリの恥だ」
辛辣なタナの言葉にハチミツは青ざめる。
「まっ。せいぜい頑張れ。わからんことがあれば聞きにくるのは良しとしてやろう」
馬車が止まる。
タナはおどけた表情のまま、そう言い残し馬車から降りた。
「これだけ言っておけば、姫さんも勉強で頭がいっぱいになって、妙な行動も少ないだろう」
タナはコオリにそっと耳打ちをする。
そのタナのやりようにコオリは苦笑いをし、ハチミツを見る。
今にも泣きだしそうなハチミツの表情。
「ハチミツ。俺のことはあまり気にしなくて良いよ。でも最低限のことは覚えなくてはね」
可哀相に思いながらも、コオリはホッとする。
確かにタナの言う通り、この地はハチミツにとって誘惑が多い。それを抑制するタナの言葉は正直ありがたかった。
「とりあえず。神殿に行こう」
コオリはハチミツの手を取り、馬車を降りた。
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