第二章

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「これは『睦月』の暦神を示しす曲だ。神殿の敷地に入ったんだな」 眠りから覚めたタナが、大あくびをした後に言う。 「タナ先生、『睦月』の曲って何?」 ハチミツがきょとんとした表情で聞く。 「暦神を表すものは多いんだ。今の曲もそうだし。『色』だってある。睦月を表す色は紺碧。如月は紅白というようにな。 あげていくとキリがないけど、そうやって……人々の生活や習慣に密着した様々なもの。それらと暦神をくっつけることによって『泰神』は暦神の存在を定着させていった。今はそんなことをしなくても良いくらい人々に浸透してるから、そういうことを知っている者も少ないがね」 「へえ。各暦神にはそれぞれ呼応した『何か』があるんだ」 ハチミツは感心したように呟く。タナはそれを聞いてニヤリと笑った。 「姫さん。覚悟しときなよ。今日からの『大泰祭』はそんな決まり事の嵐だぞ。 着る服の色から風呂に入る作法までいっぱいある。覚えないといけない事も多いしな」 「えっ!?」 「その勉強もしようとはしてたんだが、姫さんは逃げ回っていたからな。教える機会がなかった。ちゃんと覚えて恥をかかんことだ。ここにはコオリの両親もいるし、親族も多い。姫さんの恥はコオリの恥だ」 辛辣なタナの言葉にハチミツは青ざめる。 「まっ。せいぜい頑張れ。わからんことがあれば聞きにくるのは良しとしてやろう」 馬車が止まる。 タナはおどけた表情のまま、そう言い残し馬車から降りた。 「これだけ言っておけば、姫さんも勉強で頭がいっぱいになって、妙な行動も少ないだろう」 タナはコオリにそっと耳打ちをする。 そのタナのやりようにコオリは苦笑いをし、ハチミツを見る。 今にも泣きだしそうなハチミツの表情。 「ハチミツ。俺のことはあまり気にしなくて良いよ。でも最低限のことは覚えなくてはね」 可哀相に思いながらも、コオリはホッとする。 確かにタナの言う通り、この地はハチミツにとって誘惑が多い。それを抑制するタナの言葉は正直ありがたかった。 「とりあえず。神殿に行こう」 コオリはハチミツの手を取り、馬車を降りた。
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