第二章

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カツンカツン。 ふたりの足音がキレイな石貼りの廊下に響く。 秋の初めだからだろうか……ハチミツ達を包む空気は凛としていて、肌寒い。 「なんか……突き刺さるような空気だね。私の村にも小さな神殿はあったけど。もっと暖かい感じがしたよ……」 ハチミツがその場の空気に圧倒されたかのように呟く。 コオリは立ち止まり、安心させるかのように微笑んだ。 「この廊下はね、『神の足音』っていう名前がついてるんだよ。音の反響が特別なんだ。聞いてて」 コオリはそう言うと、口笛を吹き始めた。 先程聞いた睦月の音階を。 一音が響き、また次の一音に被さる。その連続。 音が繰り返されて音が増幅される。 単なる口笛なのに、音は連鎖するかのように響き合い、複雑な音色を奏でた。 コオリの口笛が終わる。 しかし音は止まない。 やまびこのように余韻が残り、耳が音を探すかのように過敏になる。 「ただの口笛なのに、重厚な音楽を聞いている気分になっただろ?そんな音の反響を作り出す構造になっているんだ。だから俺の足音やハチミツの足音、微かな衣擦れの音……それらが響き合って、独特な空気を作り出しているんだよ」 コオリはハチミツの肩を抱いて歩き出す。 「この神殿は本当に色々な仕掛けが施してあって、『特別』な場所だということを強調する仕組みになっているんだ。慣れればびっくり箱のように楽しめるよ。一ヶ月間はこの場所にお世話になるんだ。楽しもうよ」 「さすが……泰神を奉る本拠地……ってこと?」 ハチミツは掠れた声で聞く。 「うん。そうだね。さあ、ここが本殿だ」
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