第二章

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花の香りがする。 神殿内部の廊下なので、外からの匂いは届かないはずなのに、何故か強く花の匂いが漂っていた。 何の花の匂いだろう? ハチミツは頭の中にある匂いの記憶をたどる。 沈丁花……じゃないし。 蘭……でもない。 爽やかで甘い、脳がしびれるほどの郷愁を伴う澄んだ匂い。 今は深夜。 ハチミツはひとりで神殿の廊下を歩いているところだった。 再会の儀式のあと。 コオリとハチミツは神殿の住居となっている場所に行き、睦月の暦神に割り振られている部屋に入った。そこは侍従達によってすでに暖められていて、なんだかその心地よさに安心したハチミツは、いつの間にか眠ってしまっていた。 眠りから覚めたのはつい先程。 ハチミツの隣には何故か熟睡しているコオリがいた。 どうしてそんなことになっているのか、ハチミツにはわからなかったが、目はぱっちりと覚めてしまっているし、このまま布団の中にいても退屈なので、夜の散歩をしているという次第なのだ。 そこに懐かしさを呼び起こす花の匂いが漂ってきて、ハチミツは花の匂いを思わず辿って行く。 神殿の廊下は当たり前ながら、しんっと静まり返っており、等間隔に並ぶ松明の火――怪我をしないように薄い紙に覆われている――の明かりを頼りにハチミツは歩く。 この道は確か本殿に行く道。 儀式のあと、コオリに連れられて歩いた道。ハチミツはその道を花の匂いと共に歩き続ける。 さすがに本殿に行けば誰かに見つかってしまうかもしれない、ハチミツはそんな不安を感じながらも、ここまで来たのなら……もう一度あの見事な本殿を見てみたい、そう思ってその不安を振り払った。 本殿の扉の辺りは松明の明かりがなく、闇に覆われていた。 さすがのハチミツでも躊躇してしまうくらいの暗闇。 ハチミツは立ち止まる。 そこに。 またあの花の香が強く強く漂ってきた。 誰かいる……? 闇が微かに動いた感じがして、ハチミツはそうっと扉に近付いた。闇に慣れ始めた目が捉えたもの、それは……。
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