第二章

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キュッ。 「ど、どなた様……ですか?」 ハチミツが意識せずにたててしまった足裏と床との摩擦音に、ビクリと闇の塊が動き、小さいおどおどとした声が聞こえた。 花の香が強くなる。 「あ……私はハチミツ。あなたは誰なの?」 たいするハチミツも小声で答えた。 微かな衣擦れの音がし、闇に座り込んでいた人が立ち上がった。その人はゆっくりとした足取りでハチミツのもとに来る。 ハチミツは少し後退りをして、松明の明かりが灯る場所に移動した。 「ハチミツ様……ですか?わたくしはコノハナと申します。暦神の方……でしょうか?」 松明の明かりに照らされ、怯え気味に話すその人の顔がハッキリと見えはじめる。 肩より少し長い、波打つ綺麗な黒髪。肌は北の民人のように真っ白で、まるで陶器のような艶さえあるようだ。瞳も髪と同じ深さを持つ黒。とてもはかなげな雰囲気を持つ美少女がハチミツを見つめていた。 「私は睦月の暦神『一月姫』。コノハナさんも暦神なの?」 コノハナと名乗った少女の雰囲気に圧倒されながらも、ハチミツは問いに答える。 「わたくしは弥生の暦神の『生(セイ)』でございます。わたくしが言うのも何なのですが……一月姫様はかような夜更けに何をなさっているのですか?」 可愛いらしく小首を傾げてコノハナが聞く。 「ハチミツでいいよ。私は目が覚めてしまって……。散歩というか探検というか……」 初めてきた場所、しかも泰神を奉る神聖な神殿内部を暇だから歩き回っている、そう解釈されても仕方がない答えをハチミツは言う。 さすがに少し恥ずかしがりながら。 コノハナが小さな可愛い笑い声をたてた。 「睦月の主様は勇ましいのですね。でわ、お言葉に甘えてハチミツさんとお呼びしても宜しいでしょうか?」 「もちろん。コノハナさんは本殿の扉の前でいったい何をしていたの?」 「わたくしは……」 コノハナは言いにくそうに視線を下にし、言葉を濁す。 しかしすぐに思いきりがついたかのように顔を上げ、ハチミツを本殿の扉へと誘った。 コノハナはそうっと音をたてぬように扉を開ける。
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