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「コ、コノハナさん。別に逃げなくても、良かった、んじゃないかな?」
ハチミツが苦しげに質問する。山の中の散歩を日課にしていたので、体力には自信があるハチミツでも、右に左にクネクネと曲がりながら走るコノハナについていくのは必死で、余分な体力を消耗していた。
たいするコノハナは胸のあたりにある服を掴み、ゼイゼイと荒い呼吸を繰り返していた。さすがにまだ喋れるような状態ではないらしい。
その状態のまましばらく呼吸を整えるのに専念するふたり。
呼吸が楽になってきたのか、光る汗を拭いながらコノハナが話し出す。
「だって……どのようにご説明したら良いのかわかりませんでしたし。恥ずかしくて……気付いたら足が勝手に逃げ出してしまっていたのですもの」
「確かに説明しにくいけど。まあいっか。でも、ここはどこなんだろう?どう行けば私がいた部屋に帰れるのかな……?」
ハチミツの言葉に、コノハナはキョロキョロと辺りを見回す。
そして眉尻を下げ、困ったように微笑んだ。
「本当ですわ。わたくしにもここがどこなのか見当もつきません。どういたしましょう……」
「う~~ん」
予想はついてはいたが、コノハナの言葉にハチミツは腕を組んで考え込んでしまう。
そこにまた花の香り。
かなり近い距離でハチミツはその匂いを嗅ぐ。
目の前には、まだ少し息の荒いコノハナ。
彼女の口元からその花の匂いは漂ってくるように、ハチミツは感じた。
「コノハナさんの息って……」
「コノハナ!」
ハチミツがコノハナに問い掛けようとしたとき、低い男の声が静かな庭に響き渡った。
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