第三章

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大泰祭のため、重にある神殿に暦神達が集まってから三日が経った。 あの日以来ハチミツはコノハナに出会っていない。気にはなっているのだが、一週間後に押し迫った公開儀式の手順やら何やらで追われて、会いに行くこともできずにいた。 現在、ハチミツとコオリは神殿内の廊下を歩いている。 庭に面している廊下なので、穏やかな日差しが暖い。否、暑いくらいだ。 ただ時々吹く、気まぐれな涼風が心地良さを誘い、今の季節が秋なのだということを感じさせていた。 「やっぱり納得できない。あんな横暴な従者がいるなんて」 ハチミツはコオリ相手に歩きながら文句を言っていた。準備に追われながらも、ハチミツの中では、三日前の出来事は鮮明で処理しきれないものとして未だ胸の中にくすぶっている。 沸々と沸き起こる怒りをコオリにぶつけてゆくハチミツ。コオリは何度もやり取りをしている会話なので、中々収まらないハチミツの怒りをやや持て余し気味に答えていた。 「まあまあハチミツ。弥生の……コノハナさんの従者なんだろ?暦神の対は親和性が高いハズだから、故意ではないんじゃない?」 「あんなことを故意でやられたらたまったもんじゃないわよっ。コノハナさんが可哀相」 コオリのフォローにも怒り口調で返す。 コオリは軽く肩をすくめて、 「よっぽど、コノハナさんを気に入ったんだね」 ハチミツの頭に手を置いて言った。 「気に入ったっていうか……何だか放っておけない雰囲気なのよ。可愛いし素直だし」 ハチミツはコオリの手をゆっくりと払いのける。 ハチミツ達、睦月の仲が良いだけに……目の当たりにした他の暦神の複雑そうな関係性にハチミツは衝撃を少なからず受けていた。 こだわり過ぎていることにハチミツは気付いている。しかしどうにもできないでいた。 コオリは苦笑い気味の笑顔を、顔に貼付けて溜息をつく。 ふたりが向かっているのは、タナがいる『神学室』という泰神に関する書物が多く納められている部屋だ。 一通りの儀式の流れを、ハチミツはコオリから伝授されていたが、詳しい部分になるとコオリも把握していないところがあり、タナに教えを請う為にふたりで向かっているという次第であった。
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