第三章

3/6
342人が本棚に入れています
本棚に追加
/235ページ
「タナ先生!」 ハチミツが神学室の扉を開け放つとともに叫ぶ。 しかし、埃の舞う薄暗い部屋の中からは返答がない。 「いないのかな?」 コオリとハチミツはキョロキョロと辺りを見回すが、目に入るのは本の山。 古そうな巻紙で書かれたものが大きな藤籠の中に乱雑に押し込まれていたり。触れれば破けてしまいそうな年代物の表紙の本が、ハチミツの背丈よりも高く積まれていたり。奥までずっと続く本棚の中にも、びっしりと本は入れられている。 「うわあ、ここっていつもこんなに汚いの?」 「俺がいた頃はちゃんと整理整頓されていたけどね」 コオリの返答を聞きながら、ハチミツが近くにあった本の山に触ろうとする。 「触ったら崩れるぞ」 そのとき部屋の奥から声がした。 「えっ?あっ!」 ハチミツが触れた山がグラグラと揺れる。 とっさに手を当てその揺れを止めようとするが、ハチミツの背丈よりも高く積み上げられているため、上の揺らぎが止まらない。 「うわっ」 山が崩れようとする瞬間。 コオリが何かを呟く。 慌てているハチミツには聞こえない。 「はあ……何とか崩れずにすんだみたい」 安心した表情で、ハチミツはコオリの方を振り向き言う。 「ここの本はかなり古くて紙がもろくなってるから気をつけて。こんな乱雑な扱い方をタナ先生にはされてるけど、けっこう貴重な本ばかりだから」 コオリは部屋の奥にいるだろうタナにも聞こえるように言うと、ニッコリ笑った。 「安心しろ。一度読んだ本の内容は、一言一句間違えずに頭の中だ」 タナが部屋の奥からボサボサの頭で出て来て言った。 「では、破れたり綴じの順番が狂ったりしたら、タナ先生が修復して下さるんですか?」 コオリが明らかな、からかい口調で言う。タナは肩をすくめ、 「俺がするわけないだろ?コオリか姫さんにでもやらせるよ。指示はしてやる」 そう言うと、机――こちらにも乱雑に本が積み重なっている――に向かい椅子に座った。 コオリは呆れた表情で笑う。 もとより回答はわかっていたかのような笑み。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!