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「今日は客が多い日だな」
タナがパラパラと机の上にある本をめくりながら言う。
「俺たち以外にも、誰か訪ねて来られたんですか?」
コオリの問いにタナは視線を部屋の奥に向けた。
「おい、クソガキ」
「酷いな、元教え子にたいしてその呼び方はないでしょう?」
部屋の奥から藍色の長い髪を揺らし、柔らかい低音の心地良い声を響かせ、少年が出て来る。
「トケイ……」
「久しぶりだね、コオリ」
如月の主であるトケイがにこやかな笑顔で挨拶をした。
まさか、こんな場所で会うとは思っていなかったので、動揺するコオリ。
「何を……していたんだ?」
動揺を隠すこともできず、コオリが質問をした。
トケイは笑顔のまま、大袈裟に肩をすくめる。
「かっての先生にご挨拶をしていただけだよ。タナ先生は僕の家庭教師だった人だもの。コオリ……そんなに警戒しないでほしいな。久しぶりに幼なじみ同士が会えたんだしさ」
「そうそう。わざわざ俺様に会いに来てくれたんだと」
タナが興味なさげに、どちらかというと迷惑そうに合いの手を入れる。
「タナ先生がトケイの……というとハチミツの姓名を教えたのはタナ先生ですね?」
「ああ。バレたか。こういうときだけ頭の回転が早いんだから敵わんな。おいおい、睨むなよ、コオリ。害がないと判断したから教えたまでだ」
タナは悪びれずにそう肯定し、生真面目なコオリに言う。
謎であったハチミツの姓名をトケイが知っていたこと。タナとトケイが知り合いなのであれば、その謎も解ける。夢の中であれど、トケイはいつでもタナに会いに行くことができるのだから。
しかしタナが睦月の主の家庭教師になったことを、トケイは何故知っていたのだろう?また別の疑問がコオリの中に起こる。
「こいつはな、暦神になってから、たびたび俺の夢ん中に来るようになったんだよ。そんときに姫さんを教えることになったって言ったことがある」
コオリの中の疑問を察したタナが説明する。
タナの説明にコオリは頷くが、苛立ちを表す口調で詰問した。
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