第三章

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「タナ先生は暦神の決まりをお忘れなのですか!?」 暦神のそばにいることになった者には制約がつく。 『暦神について他言することなかれ』という。 「そんな決まりを守る謂れはないね。俺は姫さんを教え導く……それだけが俺の義務だ」 タナの開き直ったにしては凛とした口調にコオリはたじろぐ。タナにはタナの信念があり、たぶんトケイに情報を与えるのはその何かに則ってのことなのだう……そう、何となくそう感じたコオリは、それでも眉間にシワを寄せる。 ただでさえ行動を読みにくいトケイがこの大泰祭で何かを起こそうとしているのに、タナまでそれに関わっているとなると……コオリは頭が痛くなるのを止めれそうになかった。 「コオリは生真面目すぎだ。安心しろ。姫さんには手出しはしないし、させないさ。俺はこのクソガキに乗せられているわけでもないしな」 「そうだよ。コオリは縛られすぎなんだ。手紙に書いたろう?変化を起こしたいって……僕のしたいことは、それ以下でもそれ以上でもないのだから」 トケイがタナの意見にかぶさるように言う。 コオリはキュッと拳を握りしめ視線を床にはわす。 そんな三人の話をハチミツは少し後ろに下がって聞いていたが、たまらなくなってコオリの腕を持った。 二人の言っていることが額面通りでないことくらい、ハチミツにもわかっていた。 ハチミツを教え導くことが自分の義務だ、とタナは言っていてもそれはきっと勉強のことでないだろう。タナの家庭教師ぶりはそんなに真面目ではない。 トケイにしても、きっとタナに挨拶だけをしに来たわけではないだろう。きっと『変化』に関わることの何かを相談していた。だから部屋の奥にいたのだろうし、タナがハチミツ達を迎えいれるのに、少し時間がかかった……ハチミツはそう考え、置いていた手をコオリの腕から強く握りしめたままのコオリの拳に移動させる。
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