第三章

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変化――きっとコオリは望んでいないんだ。確かにトケイ君のやろうとしていることがわからないから不安はあるけど、その言葉だけで私の心は踊った。それは受け入れることもできる余白がある証拠。 でもコオリは……今のコオリは私が今まで見たことがないくらい、苛立っている。恐れている……? コオリは強く握りしめられたままだった拳を解放する。微かな震えを持つハチミツの手を握る。 「トケイ。君が何をしたいのか今すぐ聞き出したいけど、きっと話さないだろうね。一体いつになったら教えてくれるんだい?」 コオリは下げていた視線をあげる。 「公開儀式が終わった後に」 挑むようにトケイを見つめるコオリに微笑みながらトケイは言う。そして睦月の二人の側を通り扉に向かった。 「僕はここで失礼するよ。コオリ……僕はね」 トケイは言葉を一旦切り、コオリを見つめる。 「変化は今、必要だと感じている」 コオリは小さくかぶりを振った。その仕種をトケイは見、微かな溜息をついた後に部屋から出ていった。 「コオリ」 「大丈夫」 労るようなハチミツの呼びかけにコオリはそれだけ言うと、ハチミツの手を強く握りしめた。 「さあ。俺らがここに来た目的を達成しよう?二人して公開儀式で恥をかいちゃうよ?」 いつもの朗らかな声色でコオリは微笑む。 しかし笑う瞳の奥に、揺らぐように瞬くコオリの不安をハチミツは見たような気がして、ひどく心細い気持ちになった。 心のどこかで……ハチミツはコオリが自分の全てを受け入れてくれる。そんな風に甘えていた。今まで通り接してくれる……愛してくれる。そう思い込んでいた。でも、きっとトケイの言う変化にハチミツが賛同した途端に……別離が待っているかもしれない、その可能性があるんだということを、ハチミツは感じていた。 それに耐えることができる? わからない。まだわからない。そう。だからこそ考えることを放棄しては駄目。堂々巡りだ。 コオリの意見に納得するだけじゃあ駄目。自分の意志がどこにあるのか……確認しなきゃ。 震える心でそう再認識するハチミツをタナは見つめ、こっそりと微笑んだ。
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