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「……トケイ君はこう言ったの……、キミは今、幸せですか?……世界を許していますか?って」
ハチミツの視線は自然に下がり、いつのまにか両手でぎゅっと握りしめていた着物のシワへ移る。
その様子をじっと見ていたコオリが、そっとハチミツの顎を掴み、顔を上げさせた。
「……ハチミツは今、幸せじゃないんだ?」
ハチミツの迷いを読み取ったコオリは、そう尋ねる。
ハチミツの瞳が最大に見開かれ、涙に近い膜ができあがった。
ハチミツが出した答え……それは『幸せだというと嘘になる。幸せじゃないといっても嘘になる。私は世界を許すことができないでいる』……というもの。
「ハチミツ。伝わっているとは思うけど、俺はこう思っている……運命は否定するよりも、肯定する方が難しい……ってね。だから、ハチミツを責めたりしないし、諦めもしない」
だから、泣かないで。コオリはハチミツの耳元で囁いた。
ハチミツは安心したけれども複雑で……彼の中の理想としては、ハチミツに言った言葉が真実なのだろう。
しかし……感情が理想を上回ってしまった場合は……?
さっきの神学室でのコオリは余裕がなかった。
追い詰められたときに、果たして、理想を選べるだろうか……?
今の……ハチミツのように……。
嬉しい。
コオリの言葉はすごく。
でも、ハチミツの騒ぐ心を鎮めることはできない。
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