第四章

11/12
前へ
/235ページ
次へ
「……トケイ君はこう言ったの……、キミは今、幸せですか?……世界を許していますか?って」 ハチミツの視線は自然に下がり、いつのまにか両手でぎゅっと握りしめていた着物のシワへ移る。 その様子をじっと見ていたコオリが、そっとハチミツの顎を掴み、顔を上げさせた。 「……ハチミツは今、幸せじゃないんだ?」 ハチミツの迷いを読み取ったコオリは、そう尋ねる。 ハチミツの瞳が最大に見開かれ、涙に近い膜ができあがった。 ハチミツが出した答え……それは『幸せだというと嘘になる。幸せじゃないといっても嘘になる。私は世界を許すことができないでいる』……というもの。 「ハチミツ。伝わっているとは思うけど、俺はこう思っている……運命は否定するよりも、肯定する方が難しい……ってね。だから、ハチミツを責めたりしないし、諦めもしない」 だから、泣かないで。コオリはハチミツの耳元で囁いた。 ハチミツは安心したけれども複雑で……彼の中の理想としては、ハチミツに言った言葉が真実なのだろう。 しかし……感情が理想を上回ってしまった場合は……? さっきの神学室でのコオリは余裕がなかった。 追い詰められたときに、果たして、理想を選べるだろうか……? 今の……ハチミツのように……。 嬉しい。 コオリの言葉はすごく。 でも、ハチミツの騒ぐ心を鎮めることはできない。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!

342人が本棚に入れています
本棚に追加