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変化
携帯が震えている。
いつもの朝がやってきた。
またいつもの月曜日がやってきたのだ。
十月の月初。
早朝五時とはいえ残暑の影響かまったく寒くない。
朝の清々しさなど感じる暇なく、正人は洗面所に向かい顔を洗いはじめた。
水道水のひんやりとした感覚だけが夏の終わりを感じさせる。
正人はいつも同じ時間に顔を洗い、食事、歯磨き、セット、着替え、そしていつもと同じ6時20分に家を出て会社に向かう。
そして、いつもと同じ道を同じペースで、東武せんげん台駅まで歩き、6時37分発の準急の5両目、前から二つ目の入り口に乗り、ずっとドア越しにもたれ電車に揺られる。
新聞や本を読むわけでなく、いつも同じ人たちが乗り込んでくるのをぼんやりと眺める。
そして九段下で降りる。
会社のある半蔵門までは一駅分を歩く。
通り道には靖国神社、大妻女子学園などがあり、いつも同じ道の同じ場所で同じ人たちとすれ違う。
正人は元々はメタボ、つまり太っていた。そのため歩くことを心掛けていたのだ。
一時期90キロあった体重は70キロにまでなり、学生時代の精悍な姿を取り戻していた。
正人は顔を洗い終わりタオルで顔を拭い、ふと呟いた。
「今日はサボろう」
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