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正人
「おい君、ちょっと応接に来てくれないか」
執行役員の橋田は正人に向かい、そう告げると正人を残し、そそくさと応接室に向かった。
役員の権力を露骨に態度や発言で表現するのがお得意の、橋田らしい行動だ。
誰もがそうだろうが、
そうしたこの橋田の態度が正人は嫌いだった。
ただ橋田の仕事の実行力と責任の取り方については好感を持っていた。
だが正人は腑に落ちなかった。
この時期に役員からのお呼び。定期異動の時期ではない。
ましてや仕事の指示などではない。通例では仕事の伝達は部長クラスがするはずだ。
「一体何なんだ?何かヤバいことでもばれたか…」
応接に入ると橋田はニヤリとしながら上目遣いで正人を見上げた。…まさにキモい。
「まぁ座りたまえ」
「はい」
「君は最近忙しそうだなぁ、しっかり休んでいるのか?子供も産まれたばかりだろ。たまには家族サービスもしなきゃならんぞ。わしは君の結婚式で主賓としてスピーチしとるんだから、即離婚なんて事ではこまるからね(笑)」
(なんだコイツ。もしや女がらみのお説教かぁ。思い当たる節はない)
「はい。最近得意先との付き合いが頻繁で。ただ家族サービスは大丈夫ですよ(笑)。ところで何かご用でしょうか?」
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