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 草の隙間を冷たい風が吹き抜け、斗馬は身震いをした。  辺りは静まり返り、虫の声一つしない。ただ斗馬の喉を通るゼェゼェと言う音を除いて。  斗馬は再度辺りを見回した。土手の道を奥の方からポールが立っている所、住宅街の方まで目をはしらせるがそこには何も無かった。   「なんで……」    斗馬がそう呟いた途端、獣の匂いがした。斗馬は風上に顔を向けた。その目に、突き出た鼻面が写り込んだ。  その顔は犬か狼だが、目のあたりからボロボロの包帯が巻かれていた。   「狼男ぉ!?」    斗馬はそう叫んで自分の口を手で押さえた。  包帯の隙間から飛び出ている狼男の耳がピクリと動いた。狼男は二足で起きあがった。空中を漂う匂いを感じようとしているのか、辺りをゆっくりと頭を巡らす。  斗馬がもし風上に居たら狼男の全貌を確かめる間が無かっただろう。 ――どうする俺! 今動いたら音でバレる!  斗馬はゆっくりと左手に握ったままであった流木を右手に持ち替えた。
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