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斗馬はチヅのリードを離した。本能的なものなのか、チヅだけでも逃がそうとしたのか。
斗馬は土手を滑り降り、河原に走り込むと、落ちていた流木を手にした。
暗い上に素早く動いているせいか、音ばかりで正体が明らかにならなかった。
だが斗馬に近づいている気配は確実だった。
斗馬は川縁まで後退し、左手に流木を握り、右手に少し湿った砂利を握った。音が間近になったのを感じたのか、斗馬は右手に握っている砂利を投げつけた。
音は途中で向きを変えたらしく、斗馬から少し離れた。
斗馬は流木を右手に持ち直すと、土手を駆け上った。
「犬じゃない……あの速さは人でもない……」
そう冷静に呟く斗馬。だが流木を握った手が微かに震えていた。
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