呪い其の十

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「あいつ、最後に名前で呼んでくれたな」 手に残る温もり。 最初に出てきた時には氷のように冷たかったのに。 これは多分、あいつが普通の人間に戻れた証拠だろう。 思えば谷口から貰ったビデオから全ては始まったんだよな。 俺は沙里奈をテレビから出さないように思考をこらし、沙里奈はテレビから出ようと必死になった。 それから何故か一緒に暮らすようになって、沙里奈は人の心を取り戻した。 そして今、沙里奈は成仏して、俺は生きている。 めでたしめでたしのはず。 でも、こんなに悲しいのは、なんでだろう。 「ほんと、散々な一週間だったなぁ」 大げさに叫んで夜空を仰ぐ。 「畜生……。月明かりってやつは……目に染みるなぁ……」 月は、少し滲んでいた。
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