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「知ってた? 史の方がああ云うの得意だったんだよ」
「知ってた。徹も得意に見えたんだけどね。二人で喧嘩とかしたとしたら、絶対に史ちゃんが勝ってただろうしね」
それは徹が弱いと云う意味で云っているのではなく、史が強いと褒めていることをすぐに理解した。
好きな人のことは褒めたくなるのだろうか、徹には判らない。
ただ、そう云うわけの判らないのが恋愛なんだと云うことは知った。
「早く史が帰ってくるといいね」
「なんで突然そんなこと云うの?」
徹は一人で笑った。
「だって萌の顔に大きくそう書いてあるから」
笑い続ける徹に、萌はムッとした顔を浮かべ、ちょっと怒ってから、一緒に笑い出した。
スケッチブックの紅葉は、いつの間にか完成していた。
「さ、そろそろ帰ろうか。送ってこうか?」
「ううん、大丈夫」
徹が云うと、萌は後ろに手を回しながら笑った。
えへへ、と笑うところとかを全部含めてやんちゃ坊主みたいだ。
そうだ、と徹は紅葉の描いてあるスケッチブックの中の紙一枚を切り離して、萌に渡した。
「あげるよ」
「……ありがとう!」
紅葉はまたさわさわと音を立てて揺れていた。
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