03:理由

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本日も晴天なり。と云ったところか。 絵を描くことが好きな徹にとっては、この空も描いてみたいと思えるものだった。 ただし、今はその空を窓越しに見ている。 その空の上に浮かぶ太陽から柔らかい光が部屋に流れ込んでくるように、部屋の中は優しい光に包み込まれていた。 「徹、ご飯出来たよ」 今日は遅刻せずに済みそうだ。 徹は萌が顔を出した部屋…リビングに入って行った。 いつも萌には世話になっている。 昨日も本来ならこの時間に萌は来れるはずだったのだが、何やら寝坊してしまったらしい。 徹も同じなので、責めることはできない。 (またあの夢…だったなぁ) 昨日と変わらない夢。 何回見たか判らないほどだった。 徹は果物ナイフを持って来て、林檎の皮を剥き始めた。 目の前にはパンとベーコンエッグが並んでいて、牛乳も用意されていた。 剥き終わった林檎を適当に切って、あいている皿に適当に入れて。 そして一言。 「いただきます」 「いただきまーす」 どうせ今日も昨日と変わらない平和な日々。 いつも通りに過ごせば何も変わることはないのだ。 勿論、多少は違うけれども、大して変わらないのが毎日だ。 適当に朝食を摂った後、徹は鞄を持って家を出た。 退屈な一日が始まる。 徹は、一軒挟んだ隣の家―――萌の家の前で足を止めた。 萌の部屋はここから見える場所、二階にある。 そこから見える壁に、昨日の紅葉の絵が飾ってあった。 思わず一人で笑みを浮かべてから、徹は学校へと足を進めた。
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