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家族なんて居なかった
気付いた頃にはもう孤児院にいて、先生と他の孤児達だけが僕の全てで、僕の"世界"だった。
「ラル!雪が降ってるよ、遊びに行きましょう!」
「ホントに!?」
ラルと呼ばれた6歳の少年は雪が好きだった。
特に雪が降りそうな寒い日と、降った直後の少し温かい日が。
彼がこの孤児院に来たのもこんな天気の日。
当日2歳にも満たない彼にはそんな事知る筈もないのだが、彼の生まれ持つ直感がこの雪の日に対して何か思い入れがあるということを告げていた。
「凄ぉい!真っ白だ!」
玄関の扉を開ければ、そこは一面の銀世界。まるで真っ白なパレットのよう
「ラルは雪が大好きだもんね。ラルと同じ、真っ白で、ちょっと冷たい、きれいな雪…」
「む~…。僕は冷たくなんかないよ!」
「こないだのカレーに入ってたニンジン、食べてくれなかったじゃない」
「それはシエルの好き嫌いを無くそうとしただけだよ!」
靴の跡がつく程度に積もった雪に座り込み、怒りを孕んだ口調とは裏腹に楽しそうにはしゃぐラルとシエル。
窓からは先生が2人の様子をにっこりと眺めていて、他の子達も急ぎ足で外へと駆け出す。
あっというまに白銀の雪は小さな足跡で埋め尽くされた。
大勢の子供たちの中心にはラルの笑顔。
彼らは家族なのだ。
血の繋がりは無いけど、それよりも強い、"思い"で繋がった家族。
そして全員が両親の居ない子供たち。
ラルもそう。
1、2歳くらいの時、この孤児院の入り口に置かれていたのを先生に拾われたのだ。
一時は家族が居ないという事実に涙し、もしかしたら生きているかもしれない両親を恨んだこともあった。
そしてそれを先生や他の子達に当たったこともあった。
だけどその時に教えられた。
"みんなも同じ気持ちなんだ"と……
自分だけではない、大きなお兄さんも、来たばかりの女の子もみんな同じ思いを背負って暮らしているのだと。
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