10人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
ラルは小さい頃から頭のいい子供だった。
この孤児院があまり裕福でないことは知っていたし無駄遣いをしないようにしよう、と子供達で話し合ったこともあった。
そして、昼間こそにこにこと笑い、子供達と遊んでいるが、夜になると母は辛そうな表情で何かを書いているということも知っていた。
子供達の食費や服だけでも沢山のお金が必要になる。
いくら国からの援助があっても、若い女1人でやっていくには限界というものがある。
―――…それならば…
「~~っ…、それでもラルは渡しません!
こんな……、お金を駆け引きにラルを渡すなんて絶対に嫌です!!
この子がどんな生い立ちであったとしても、私の愛する子供であり、この家の大切な家族です!
………頂いていた援助も、寄付金も必要ありません。私の力でこの子たちを育ててみせます。もう帰ってください!」
「そうよ!ラルは私達の大切な、大切な兄弟だもん!
連れてなんて行かせないもん!!」
母ははっきりと否定の意を表した。自分がどう見えていようが関係なく、くしゃくしゃに顔を歪め声が枯れても叫び続けた。
後に続いて子供達も声を上げる
――ああ、僕はなんて幸せだろう…
こんなに沢山の家族に囲まれて
こんなに沢山の家族に愛されて……
……、こんなに沢山の家族に、守られて…………。
僕一人が居なくなるだけで、今よりもっと美味しいご飯が食べられて、もっと上等な服を着ることが出来るのに。
そんな未来を捨てて、むしろ今以上に辛い生活になるかもしれないのに、お母さんも皆も僕を守るために必死になってくれている。
僕は、皆に幸せになってほしい―――…
大切な大切な、何よりも大切な――――
―――僕の、『世界(すべて)』だから………
最初のコメントを投稿しよう!