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ラルを兵士から遠ざけようと、シエルがラルの腕を引いて家の中へと誘導する。
しかし、ラルはその腕を振りほどき立ち止まった
「………、ラル?」
不思議そうに見つめるシエル。
するとラルはにっこりとシエルに笑い掛け、そのまま家に背を向け、家とは反対の方向に歩きだした
シエルは勿論、兵士と言い争う子供達やお母さんも何が起こっているのか分からず唖然と眺める
皆の間を真直ぐ横切り、大きくそそりたつ兵士の目の前で、その脚を止めた
ラルははっきりとした口調で、前を見据える鋭い眼光で目の前の兵士に言い放つ
「兵士さん、僕をお城に連れて行ってください」
「…っ、フェムト様?!」
先程までの喧騒が何も無かったかの様に止み、ラルの声だけが響く
「兵士さんは僕を王家を第二王子、フェムトって言ったよね。
じゃあ、僕は今日から『フェムト』になります。
だからその代わり、『ラル』の大切な、何よりも大切な家族を幸せにしてください。お願いします」
絶対に泣かない。泣いたら何かに負けてしまう気がするから。
一番大切なものを捨てて、僕は僕じゃ無くなるから、その替わりに、僕が大切にしていたものを守ってください。
僕はもう、一緒にいることは出来ないから………
「………、必ずや…。」
自分よりもずっと強く、大きな兵士が僕の前に跪く。
その言葉に安心した僕はほんの少し表情を緩め、今まで暮らしてきた我が家と、大勢の家族の方へと身体を向け、くるりと皆の方へ向き直った。
その表情はこの場に似合わない程の満面の笑顔
みんなが何かを叫んでいるけど、今の僕には聞こえない。
僕はちゃんと笑えてるかな?
泣いたりしてないかな?
一生懸命笑顔を作り、視線の先にある家族たちと我が家を見つめ、ラルは一言、口にする
最後の言葉を告げるために………
「ありがとう。
こんなに沢山の家族に囲まれて、僕はきっと世界一幸せでした。皆ありがとう。
―――さよなら」
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