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少女は男を恨んでなどいなかった。
元々、自分の様なつまらない女を好いてくれるとも思っていなかった
ただ、少しの間だけ自分を見てくれれば良いと思っていた。
だが、いざとなると少女は男に切り捨てられるのが怖くなった
だから、どんなに暴力を受けようと、どれだけ酷い目に会おうとも、男との関係を長引かせようとしてしまったのだ
こんな結果になったのも、全ては自分のエゴでしかない
あの男の本質はとても優しい人なのだと少女は分かっていた
ただ、あの男はあまりにも容姿に恵まれ過ぎていて、彼自身すらも本当の自分に気づくことが出来なかっただけなのだ
ただ自分は、外見ではなく、男の本質に好意を寄せていた。これだけは確かだ
しかし結果的に、男にとっては周りにいた女性たちと自分に違いなんて無かったのだ
だから、全ては自分の責任
この男は、ある意味では被害者なのだ
周囲の環境と、男の容姿が、男自身を変えてしまった
自分が病に侵されたことで、今の自分の姿を見たことで、この男が本当の自分に気付くことができるのなら、それはとても素敵な事だと思う
愛されこそしなかったけれど、自分の存在が、目の前で泣きじゃくるこの男に何か気付かせるきっかけになれたのなら、こんなつまらない自分にも価値があったんだと思えるから
男がようやく落ち着きを取り戻した時、少女の担当となっている看護師が迎えに来た
「突然泣き出してごめん、もうこの階の立ち入りが禁止になるから、今日は帰るね」
男は言った
「久しぶりに会えてとてもうれしかったです。ありがとうございました」
少女は言った
「今、この病院に親戚が入院してるんだ、また明日も来るんだけど、また来てもいいかな」
「ええ、待ってます」
少女の答えに、男は少しだけ嬉しくなった
そして男は少女に別れを告げた
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