2、黒き翼を持つ者へ【長編/現代ファンタジー】

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「『黒き翼が世に放たれる時、世界は今ある姿を変える』つまりはこの赤子は世界を滅ぼす存在となり得るのだ。」 「でも長老、『彼は黒き翼に白き心をもつ救世主――……』なんて言葉もあるんですよ。一概に悪だと決め付けるのは少々早いのではないでしょうか?」 「ならぬ。善きにしろ悪しきにしろ、不穏の芽は摘み取っておいた方が良い。さぁキリサキ、聖槍を持て」 「はい」  キリサキ、と呼ばれた男が聖水で清められた槍を長老に渡す 「この世を守護する我等七賢者は今ここに悪しきを滅しましょう。神よ、如何なる理由でも命を奪う我等を許したまえ」  長老は白銀に輝く槍の矛先を赤ん坊の胸に向ける。そして―――――――――――― ――――――――――――― ――――――――― ――――― ――… 赤い紅い、華が咲いた 「……。これで儀式は終了じゃ。各人、赤子の身体や血には決して触れぬようにしてこの場から立ち去ってくれ」  赤ん坊の数倍の長さのある聖槍が赤ん坊の胸に深々と突き刺さっており、そこからは造られたばかりの真っ赤な鮮血が蛇口を捻ったようにどくどくと流れ落ちる。  先程までの血色の良い皮膚や赤ん坊特有の体温は流れる血と共に固く冷たいものへと変化していき、七賢者がこの場から消える頃には『者』だった筈の赤ん坊は『モノ』へと成り代わっていった。  月明かりを浴びて不気味な輝きを放つ教会には地下室があった。  祭壇を特殊な技法でスライドさせると冷たい石の階段があり、そこにはたった1日だけ『黒き翼』と呼ばれ畏怖された赤ん坊が封印されている。  しかしその階段は今はもう存在しない。  あるのはスライドする祭壇と、後に入り口を封鎖された後の白いコンクリートの跡だけ……………
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