16、古ぼけたピアノは今……

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 祖父が店をたたんだのは私が4つの時。当時、祖父はもう80近い歳で、前々から患っていた関節の痛みから重量のある楽器を持ち運んだりメンテナンスをするのが困難になってきたからだと、後に母から聞きました。  閉店した後、父と母は楽器を売る事を祖父に勧めたそうです。  楽器というのは値が張る上にそうそう売れるものでもなく、しかも点検するのにもお金がかかってしまうので祖父の店はお世辞にも繁盛しているなんて言えるものではありませんでした。というよりも、今思えばあの店は本当に楽器を売ろうとしていたのかすら疑問です。  両親は、売れ残った楽器を売れば老後の足しになるだろうと何度も進めていましたが、祖父は頑なにその言葉を聞きいれようとはしませんでした。  最終的に両親は呆れかえり、好きにしてくれという言葉を残して私を連れて3人で家を出て行きました。  それから数年して、祖父は亡くなりました。  ピアノの前に座り、両手を鍵盤に乗せた状態で発見されました。  ・・・それを見つけたのは、私でした。
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