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その前の晩、私は不思議な夢を見たのです。
夢ですから、当然記憶は漠然としたもので、今ぼんやりと覚えている事ですら年月が経って勝手に解釈を変えてしまった情景なんじゃないかとすら思えます。
夢の内容は、私がピアノと話しているもので、ピアノは何故か泣いていました。
さみしいよ
かなしいよ
だれもぼくをかなでてくれない
だれもぼくのこえをきいてくれない
おじいさんもぼくをひいてくれない
そう言って、泣いていました。
私はそれを見て、こう言いました。
「どうしておじいちゃんは弾いてくれないの?あんなにあなたを大切にしていたのに」
ピアノは、こう答えました。
おじいさんはもうひけないんだ
おじいさんがひいてくれないからぼくはひとりぼっちになっちゃったんだ
もうぼくのこえをきいてくれるひとはいない
……ピアノは、それからずっと泣き続けていました。それだけの夢でした。
次の日に気になって祖父の家に行くと……結果は先程言った通りでした。
祖父はあまり人との交流をもっていなかった人なので、私があの時行かなければきっと腐るまであのままだっただろう、と葬儀の時に誰かが言っていたのを覚えています。
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