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葬儀の際、私は棺の中に祖父が最後まで愛していたピアノの鍵盤を一つ取って入れました。
ピアノはその後、父と母がどこかに売ってしまったんだそうです。
鍵盤が足りないので大した額にもならなかったとは思いますが、大きなピアノは捨てるのも燃やすのも大変で移動するのも一苦労だったので、業者さんを呼んで買い取りに来てもらったのです。
―――今でも時々祖父の遺した家に行くと音楽が聞こえてきます。
きっと、幼い頃に見たままの景色と重なって当時聞いた曲が頭の中に浮かんできているのでしょう。
私はそれが好きで、今でも時々祖父の遺した家にいきます。
祖父の部屋には、当時祖父とピアノが語り合った"言葉"が今でも残っているんじゃないかと思うと、あの時確かにピアノと祖父には言葉にできない絆があったんだと思えます。
――もしかしたら祖父は、あの時私と同じ夢を見たんじゃないかと思うのです。
ピアノの悲しみを晴らそうと、最後の力を振り絞ってあの場所に行ったんじゃないかと思えて仕方がありません。
もしもあのピアノが、たった一人の友人を失い悲しんでいるのなら……
私は…
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