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僕は今、いわゆる遺跡という場所にいた。
古代の人々が石を積み上げ泥を固めて造った黄土色の床や壁には、古代語と思しき謎な文字や図形が一定の法則をもって彫り込まれていて、そのくぼみが僅かに差し込む光で陰を作り、どこか幻想的ともとれる光と影の芸術を生み出し、強烈な印象となる。
しかし、そんな神秘的な空間も今の僕にはただの背景でしかなく、視線の先にある"それ"から他に意識を向けることができなくなっていた。
黄土色の土床に、不自然な色をした煉瓦の床。
「……。踏んだら、ガコッて沈みそう…」
ついでにそれがスイッチとなって、壁にあるくぼみや穴から何かが飛び出してきそうだ。あくまで予測の範囲内の事でしかないんだけれど、あながち間違いでもないのだろう。壁に空いた小さな穴をのぞき込んでみるとキラリと光る鋭利な何かがあった。
「…」
触らぬ神に祟り無し。別にこれを踏まなくても通路は広いんだからあえて危ない道を踏むことはないよね、とあえてそれを避けるようにして通路を先に進んだ。
足音だけが反響する通路の奥には、複数の扉が並んでいた。別に2つや3つ程度なら良いのだが、なんといってもその数。
「何を思ってこんなにドアばっかり作ったんだ…?ここの主は何がしたいんだ…」
自分を中心にして分度器のようにぐるりと180度見渡す。
全部で12ある扉は全て同じ形状で等間隔に並んでいた。それらはやはりかすかに差し込む光と影によって怪しく照らされ、どれもがどれも本物のように見えた。
「たぶん、どれか一つだけが本物なんだよね?」
どこを開いても同じ場所に繋がっているとしたらとっても楽なのだが、さすがにそれは無いだろう。
とりあえず、ドアがまったく同じで比べようが無いので、端から一つずつ適当開けていくことにした。。
「…」
不用心なのか、そういう設計なのか。ドアに取っ手は付いていたのだが、本当に"付いていた"だけだった。
ノブを回すこともなく押すとあっさりとドアは開いた。
「…あ」
どうやら最初から当たりを引いてしまったらしい。
あまりの単純さに不信感を募らせながらドアの奥を見ると、数十メートルほどの狭い廊下が続いており、その突き当たりの台の上になにやら箱のようなものが見えた。
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