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「ほんとにこれでゴールなの?…あっけなかったな」
罠らしいものも見あたらなかったのでそのまま廊下をまっすぐ進み箱を手に取ると、やはりこれで当たりのようだ。
小さくて、それでいて中身が壊れないようにと頑丈に作られた小さな木箱。
これが"宝"。
僕が見つけなければいけない、この遺跡の宝物。
「やっと見つけた…、これでようやく戻れるーーよっと」
手のひらサイズの木箱は思いの外錆びていたようで、ギギ…と金属の擦れる音を発しながら鈍く開いた。あまり握力に自信はないので指先がジンジンと痛む。
箱を開けたことによって僕の"ゴール"が確定し、その証拠として宝箱に詰まっていた光の粒子が僕に降り注ぐ。そしてその瞬間"宝"がどんなものだったのかを"理解"した。
「そっか、ここまでの道が妙に入り組んでたのも、罠がいっぱいあったのも…、それでも罠の存在が分かりやすくなってたのも、本当は見つけて欲しかったからなんだね」
全ては遺跡の意志。誰にも見られたくないから入り組んでいて、誰にも入られたくないから罠をかけた。
それでも無意識の本心ではこの"宝"を見つけて欲しかった。だから罠があっても必ずヒントがあった。
そんな矛盾した迷路が守っていたのは小さな箱に入った、小さな小さな恋心。隠し場所がこんなイカツい遺跡だったのは、素直になれなくて意地を張っていた彼女自身だったというわけだ。
「こんなに綺麗な感情なのにすごく小さい…。きっと不安で不安で、自身が無くて、怖くて震えてて、だからこんなに堅い壁で守ってたんだね。
―――どうか、この気持ちが、伝わるべき人に伝わりますように…」
祈りを一つ。
それと同時に光の粒子もおさまり、僕の意識は静かに遠くなっていった…
* *
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