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「あーー…、面白かったのに、残念」
手鏡を鞄の中に仕舞って伸びを一つ。
真っ黒な顔の由希はとっても面白かったけど、さすがにやりすぎた気がした。反省反省
「この課題も嘘っぱちだもんねぇ…。ホントは明日野球部が試合だから先生達が部活に専念できるようにって授業も進めなかったし、課題も無かったし」
悪い事したかな?いやいや、授業中の居眠りは大罪です。
クスリと笑いが漏れてしまい、そんな自分にまた笑いがこみ上げる。きっと彼が戻ってきても顔は黒っぽいままだろう。皮膚の隙間に入った油性ペンは落ちにくいし、石鹸を使ったとしても目の回りは洗いにくいだろうし。
どうせ怒鳴られるんだろう。
普段あんなにおっとりのんびりしてるのに、こういう時はキャラ崩壊みたいに感情豊かになるんだから。
まぁ、本来はそれだけ明るかったって事だろうけどね。
「絶対、何か隠してるよね……ん?あれは…佐伯さん?まだ部活やってたんだ…」
ふと教室の窓からグラウンドに視線を向けると、見慣れた短髪の女の子がバットの素振りをしていた。
ソフトボール部の佐伯さんは女子の中でも男勝りでサッパリした人だ。力持ちだし正義感もあって優しくて、クラスではいわゆる"女子に頼られる女の子"の位置にいる。
そのせいか彼氏とかは居なくて、噂では男に興味が無いとか言われてるんだけど―――……
つい、頬がゆるむ
「何だ、やっぱり女の子なんじゃない」
たった今部活が終わったんだろう。野球部の男子が佐伯さんに近づいて、素振りのアドバイスをしてるみたいだ。いつも大きく見える佐伯さんの背中は少しだけ小さくなっている。顔もほんのり赤らんで見えた。
「…応援、してるからね」
聞こえないだろうけど、そう小さく漏らす。素直になれない女の子に幸せが訪れますように、そう願いを込めて。
そして私は誰も居ない教室を後にした。
――――油性ペンと格闘している友人のもとへ
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