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御坂と石倉が灰のように消え去った直後、必然か偶然か王座を中心に部屋全体が明るく照らされた。
どうやら天井に開いた穴の真上に月が来たようだ
《王ノ……、誕生ダ…》
感慨深そうな声が遺跡全体に響き渡る。
それは音の波である『人の声』ではなく、言葉でもなく、脳に直接響く意志のようなものに近いだろう。
遺跡がまるで昼間のように明るくなり、王座の中央に降る月光が一際明るくなった
光という粒子が天井の穴から王座に注がれ、そこが見えなくなるほど強く輝く。キィィン…、という超音波のような甲高い音が部屋中に響き、反響し、共鳴する。
その光が最高点に到達すると、徐々に光が弱まっていき、2分ほどすると先ほどと同じく静かな夜に戻り、柔らかい月光が王座を包み込むように輝いていた。
部屋から生命力の詰まった小さな泣き声が響き出した。
見ると、月の光の射す王座に生まれたばかりの赤ん坊が佇んでいた
御坂や石倉がその存在に気づかなかったということは、先ほどの強い発光の後から現れたのだろう、ブロンドの髪に金とも銀とも言い難い月のような色をした双眼の赤ん坊だった
そこにタイミングを見計らってか、黒い服を着た細身の男が部屋に足を踏み入れた
《ヨウヤク来タカ…。タッタ今、王ガ誕生サレタゾ》
「あぁ、しっかり見てたさ……」
男は赤ん坊を抱き上げた
「お前、生まれてくるのが遅すぎなんだよ。どんだけ俺たちが待ったと思ってる…」
うりうりとほっぺたをつつきながら悪態をつく男、その表情には言葉のような辛辣さは無く、やさしい微笑みが浮かんでいた
《月影(ツキカゲ)……、コレカラ貴様ニ王ヲ任セルガ…クレグレモ大事ノ無イヨウニナ》
「わかってるって。それじゃあ遺跡の番人、またな…」
《アァ…》
男は赤ん坊を抱いたまま遺跡を後にした
《7万ト3百ノ満月ノ光ヲ受ケテ生マレシ王ヨ………、我ラノ運命ハ貴方デ決マルノデス…》
時代を感じさせる石造りの空間に、いつの時代でも決して変わることの無い月の光がスポットライトのように降り注ぎ王座を照らす。
その遺跡の番人と呼ばれた者の意志だけが遺跡に響いた
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