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「…………、夕月君さ…。昨日の11時くらいにビルの上にいなかった?」
「へ?」
口に入れかけたじゃがりこがぽろりと落ちる
それに構わずルリは続ける
「昨日の夜、塾が終わるの遅かったから急いで帰ろうと裏道を通ってたの。
そしたら空の上から大きな音が聞こえて……、気になって廃ビルの屋上の方を見たら………」
ごくり、と夕月は生唾を飲み込む。
表情こそいつもと変わらないものだったが、内心では今にも騒ぎ出したいほどに焦りが募っていた
――――もしや、『アレ』を見られてた…?
「夕月くんにそっくりな…、ううん、夜だったけど満月で明るかったから顔ははっきり見えた。
金色の髪の毛とか背格好とか、確かにあれは夕月君だった…」
途中で言葉を切って夕月を見るルリ
まだ肝心の一言が出てこないことにますます夕月の焦りは強くなる。気温は暑くないはずなのに額から一筋の汗が落ちる
…そして
「………その時夕月くん、大きな生き物を……」
ここまで聞いた夕月の焦りはピークに達した
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…!!よし、こうなったら……
「…殺してt…」
「月影!!ヘルプ!!」
「え?」
ルリが全て言い終わる前に夕月が叫ぶ。その叫びにはここが公共施設であることや、もし周りに聞こえてしまったら…といった配慮など一切無く、ただ純粋に焦っているのだという気持ちとルリの言葉を最後まで聞かないように遮ったような切羽詰ったような節が見えた。
夕月が叫んだ直後に異変は起こり、穏やかだった空気が一転、突然の突風でルリは思わず目を瞑ってしまった
突風が止み、ルリが閉じた瞳を開くとそこには黒っぽい服を着た細身の男が立っていた
少し年を増してはいるが、それは『あの遺跡』で赤ん坊を連れ帰った男だ
「えっ、だ…誰…?ここ、屋上………」
突然現れた見知らぬ男性にルリは戸惑う。
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