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「―――へぇ!お兄ちゃんはヘーゼルの街から来たの?」
「うん。そしたら迷子になっちゃってさ…、帰り道が分からなくなっちゃったんだよ…」
とほほ、と自分の情けなさを嘆いてみる。
本当に嘆くべきなのは、そんな話を小さな子供に聞かせているトオリ自身なのだが、本人は気づきもしない。
「じゃあさ、じゃあさ、もう暗くなっちゃうから、お兄ちゃんあたし達のお家に泊っちゃいなよ!」
「え、いや…それは大丈夫だけど…」
「そうしよう!パパもきっと良いって言うもん!」
「や、ほんと、大丈夫だから…」
「そうだね!パパ優しいもん。一緒に"きねんび"やろう」
「やろうやろう!」
セリカとセルアは楽しそうに小躍りし出す。
トオリからすると、街への方角だけ教えてもらえればよかったのだが、どうやらこのお化け屋敷に連行…いや、招待されてしまったらしい。
しかも、恐らく拒否権は無い
「行こう!」
セルアの小さな両腕ががっしりとトオリの右腕をホールドする
「早く早く!」
同じく、セリカが右腕を掴む
無意識なのか、あるいは計算なのか、絶対離さないとでも言うようにしっかりとつかまれてしまい、トオリは内心この二人に恐怖していた
幽霊?もしかして、迷い込んだ旅人をこの見るからに怪しげな洋館に連れ込んで"パパ"とやらに……そうだよ、そういえばさっき"きねんび"って言ってたぞ!何の記念日だ!ここで『新たな生贄』に対する記念日とかってオチだったら冗談じゃない
どこのホラー映画だ!!
そこまで頭の中はパニックに陥っているというのに、普段ののんびりとした生活が体に染みついているのか、どうもじたばたと暴れることが出来ない
「れっつごー!」
「た、助けて神様……」
二人の元気な声が沈みかけた空に響き渡り、トオリは成す術も無く洋館へと連れ込まれていった
これが、何かの終わり
そして、何かの始まり
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