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そのたった一つの窓が、僕らの全てだった。
マドギワ
「今日は、とても良い天気だよ」
死を待つ為の箱庭。白く無機質に塗り潰された部屋の中。余命幾許もないと宣告された二人の男が、其処にいた。窓側の男はベットから外を眺め、もう一人の男にそう告げる。最早立ち上がる事さえも困難なドア側の男は、男の口から語られる、もう二度と歩く事の出来ない窓の外の世界の様子に、ただ黙って耳を傾けていた。何時からだっただろう。外の景色が見たいと呟いた男に、窓側の男が其れを事細かに語るようになったのは。今では頻繁に繰り返されるその行為は、最早二人の日常と化していた。語られる、色鮮やかな美しい外の世界。それを脳裏に思い描きながら、ドア側の男は死を待つ事しか出来ない我が身の儚さを嘆かずにはいられなかった。
澄み渡る青(ブラウ) 暮れ残る橙(オランジェ)
萌え出る緑(グリューン) 舞い落ちる茶(ブラウン)
忍び寄る白い影(ヘルシャッテン)
避けられぬ黒き闇(フィンスターニス)
やがて湧き上がる羨望
喪われていく秩序と倫理...
(…嗚呼、忌避し選ぬならせめて…どうか最期の我が儘を…)
男は空を求めた
男は窓を求めた
男は生を求めた
男は...
主観は全てを歪ませ、あらゆる悪を正義へ変える。死と言う断崖に追い詰められた男は、眼下の恐怖に憑り付かれ、本質を見失う。残酷な願いは、残酷な運命を辿る二人に残酷な転機を与える。然し、悲しくも彼等は知らなかった。彼等が互いの内に抱く物の存在を…
真夜中の悲劇 消えて逝く灯
真夜中の喜劇 巡り来た機会
死神の鎌が捕らえた首筋を
冷たく見つめる悪魔の双眸...
男は空を求めた
男は窓を求めた
男は生を求めた
男は...
「悪く思わないでくれ…」
死を待つ為の箱庭。白く無機質に塗り潰された部屋の中。余命幾許もないと宣告された一人の男が、其処にいた。彼は嬉々とした表情で、漸く手に入れた至福を覆う薄衣を取り払う。然し、其処に広がっていたのは…
「……そんな…」
一枚の硝子を隔てた世界。窓枠の中に満たされた、冷たいコンクリートの壁。
「…あ…うあぁあぁああぁぁああぁああぁあああぁあぁあぁああぁ!!!!」
止まぬ絶叫。尽きぬ慟哭。彼が喪ったものは余りにも尊く、大き過ぎた。
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