4章

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練習が始まる。 理奈はベンチで その光景を見ていた。 いつもなら 元気に声援を送るのだが 今日は元気がない。 愛らしい顔を曇らせ 憂鬱そうに深い溜息をついた。 昨日、 明日の授業の用意をしていると 鞄に付けていたキーホルダーが 失くなっているのに 気がついた。 慌てて鞄の中身を 全て出して探したが 見つからなかった。 登校のときにも 昨日通った道を探したが 失かった。 理奈にとって そのキーホルダーは 大切なものだったので いつになく落ち込んでいる。 ぼうっと皆が 練習しているのを観ていると 頬に熱いものが伝った。 涙がこぼれ落ちる。 「あ…あれ? やだな…」 次々と出てくる涙は 止まらない。 「…嫌…だよ」 ―そんなに…あたし 哀しかったんだ…― タオルで顔を拭う。 もうすぐ休憩だ。 選手達に泣いてる所を 見られる訳にはいかない。 監督が大きな声で 休憩を告げた。 汗だくの選手達が ベンチに戻って来た。 理奈は用意していた タオルを一人ひとりに 声を掛けながら渡す。 マネージャーの仕事は 身体が覚えていて 考えるより先に 身体が勝手に動く。
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