初仕事

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「着いたよ。」  「……もう?」  なんだか急に……不安が怖さに変わってくる。  視点が定まらない。  足が震える。  ヤバイ……  泣きそう……  どうしよう…………  高樹さんは運転席を降りて、あたしの座る後部座席のドアを開けた。  あたしは高樹さんの顔を見る。 高樹さんはそこにしゃがんであたしを見た。 「誰だって最初からちゃんとできないよ?できる範囲でいいから。何も考えずに行ってみよ?」  高樹さんはあたしの背中をバシッと強く叩いた。  あたしは高樹さんの後ろを歩いた。  アパートのドアの横、中から死角になる場所に立たせて、彼はインターフォンを押す。 高樹さんは、「ジェニファー大橋店のドライバーです」と名乗り、客の部屋に入った。 中に複数の人がいないか、 風呂、シャワーは使えるか、 不衛生すぎないか、  それを確認しに行く。  心臓の音が大きくなる。 激しく脈打つ。  やってみるんだ。 この仕事。 やるって決めたんだ。 あたしは大きく深呼吸した。 出てきた高樹さんと入れ違いにあたしは入る。 「はじめまして、ありさです。」 あたしの幸せの象徴だった 『ありさ』は、 ここが始まり。
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