Myself Yourself

5/7
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
現実を受け入れるのが怖い。 自分の大好きな人が、手の届かない場所に行ってしまうことが。 「せ…んぱ…い……」 嗚咽混じりの声。 そして、存在を確かめるように強く抱き締める。 「イヤ…ですよ……」 このまま時が止まればいい。 この人の温もりを失いたくない。 「ゴメンな」 「謝らない…で……!!」 自分の気持ちに抑えが効かない。 「先輩のコト…私の想いはどうなるんですか……」 聞こえるか聞こえないか、ギリギリの声で呟いた。 先輩の腕の力が強くなる。 「好きやで、俺は」 聞こえていたらしい。 「せやから…知られたくなかった、悲しませたくなかったんや」 「勝手言わないでくださいよ」 ひとしきり泣いた私は、そこそこに冷静さを取り戻していた。 「何も言わずにいなくなられて…残された私の気持ちはどうしたら?」 「教えるのは簡単やで…せやかて、言うワケにいかんかったんや」 私は黙ったまま、先輩の言葉を待った。 「病気に負けるくらいなら、自分の幕は自分で下げてやろうか…そう思てな」 自分で幕を下ろす? 言ってる意味がわからない。 「バカですか?」 一気に冷めた。 私はこんな弱い人を好きだったのか。 やや自嘲気味な私がいる。 そして先輩は唖然としていた…が、徐々に怒りの表情に変わる。 「お前に俺の辛…」 私の右手は自然と先輩の頬に伸びていた。 「っ……」 パシッ、と言う乾いた音が辺りに響く。 ちょっと強すぎた気もするけど、嫌われたって構わない。 「先輩に私の辛さがわかりますか?」 それだけ言い残すと、私は先輩に背を向け階段に向かった。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!