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見つめ合う視線が逸れ、 私の身体を下降していく。 そして繋がった部分まで来ると、静かにまぶたが閉ざされる。 私は、仰向けに寝ている男の満足気な顔を見下ろし、 一旦浮かせた腰をゆっくりと沈める。 男の唇の右端がクイと吊り上げられ、鼻から抜ける息に微かな唸りが混じる。 深い呼吸を見届けてもう一度。 男は、口角を上げた笑顔で、 閉じたままの目尻を下げる。 だいたいが、常にほほえんでいるような表情なのだ。 人の心を見透かすように。 そんなことを考えた途端、 「いい音」 満たされた身体の内部に、 声の振動が伝わる。 頬を軽く張ってやろうかと思うのを寸前でやめ、膝で立つ。 互いを繋ぐものが外れる。 所在なさそうに揺れながら。 「この音?」 訊ねる私に、 「逆の音」 語尾を跳ねるようにして笑い声が応える。 横たわった男は、まぶたをピクリとも動かさず、平然と待っている。 急かす様子もなく。 私は彼の太腿に座り直し、目の前に屹立しているものを爪で弾く。 「こら、粗末に扱うな」 声はゆっくりと穏やかだ。 人懐こい瞳が、私を見上げている。 「こんなものが、私にもあればいいのに」 「これ?」 それが、ヒクリと小さく震えた。 薄い緑色の第二の皮膚をゆるくなぞると微妙にもたつく。 男の腿に力が入り、 私の身体がわずかに持ち上がる。 「感じる?」 そのまま腕を伸ばし、 指をいっぱいに広げた両手で胸の筋肉に大きな円を描くと、 手首近くに小さな突起の感触が 通り過ぎる。 それは何度目かで、堅く立ち上がった。 「くすぐったいよ」 私の腹に当たっている力を抱きつぶすようにして彼に被さり、 片方に口づける。 私の下でまんべんなく薄い筋肉のついた浅黒い身体がのけぞる。 「彼女にしたいこと、あなたにしてる」 自嘲気味に言うと、頭の上の方でクッと鼻が鳴る。 別に、馬鹿にして笑っているというのでもないだろう。 「磨知に大事な質問」 骨ばった両手が私の耳の辺りを包み、顔を上向かせる。 長い指先が首筋に這う感触に、 鳥肌が立つ。 「女性の乳首をこんなふうに……吸ったり、舐めたり、咬んだりした経験は?」 ないと知っていてわざと訊く。 それは私の埋み火を煽るために。 「赤ん坊の頃に」 わずかに首を傾げて見せ、 目だけで男は笑う。 俗に言う二枚目には程遠いのに、なんていい顔をしているのだろう。そして、身体も。
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