11/11
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
雨宮はレンジで牛乳を温めながら私が普通の女性並みに ボディラインやメイクや ファッションに気を遣うのは どうしてかと訊ねる。 社会に強制された女らしさを 踏襲することは、自衛なのかと。 「社会の目を 意識しているんじゃないわ。 女性的な身体の特徴とか、 きっと好きなのね。 もしかしたら、 男性主導の文化に毒されちゃった犠牲者なのかもしれない。でもね、私は普通に言うところの 女性らしい身体や雰囲気が好き。そして一番身近な女性は、 好きじゃないけど私自身なのよ」 言いながら、 これがトランスジェンダーの 人達との違いだと初めて気付く。 雨宮はいつも、私自身も探れないような部分をうまく開拓する。 私が何者なのか、彼の問いかけが少しずつ教えてくれる。 「バットマンになりたい というのは、どこにいったんだ?」 「それは頭の中。 女らしい私自身というのは 既に手に入れてるから、その上で、女性を奪ってくるだけの たくましい腕も欲しい。 矛盾してるけど。 ほんとにバットマンみたいになるのは嫌なの。 女同士で抱き合うのが、私の ファンタジーなの。 バットマンが羨ましいのは、 その傍らに 美しい女性がついているから。 誰にも責められずにね。 でも、きっと彼は悩めるゲイよ。 ロビンとふたりきりの時の 会話なんて、 まるっきり痴話喧嘩なんだもの。 結局、私の仲間なのかしらね。 なんか私って、 ジェンダーアイデンティティと 性嗜好と美的感覚のバランスが 悪いと思わない?」 交通整理はできてるじゃないか、と雨宮はホットミルクをすする。 「そこまでわかってるなら、 やせ我慢はやめて我儘になれよ。女の私は女が欲しい、って 贅沢にさ」 あなたが訊いてくれたから、 だからはっきりと認識できたのだと、それは心に収めて 私は素直にほほえんだ。 「贅沢なの?」 「男から見ると、女は眩しいよ。 女を欲しいと感じるのは、女に 憧れているていう要素はあるね、多分に」 「ホントなの?」 「少なくとも俺は」 参考にならないわね、と 私は笑ってしまう。 雨宮はおよそ 一般的な男性とは言えない。 「ところで、 懲りすぎなのが幾つかあるの」 再び何枚もの図面を広げ、 私達は他人の家造りに没頭した。
/92ページ

最初のコメントを投稿しよう!