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杏子の担当は、 当然のように私に決まった。 課長はご機嫌だ。 ほかのメーカーと競合させられるにしても、知り合いであるというメリットは充分大きい。 快くアンケートに応じた杏子に 土地はなく、分譲地を選ぶことから始めなくてはならないようだ。 「世帯主の年齢は二十五歳。 次は、あら?」 家族構成を記入しながら、 変ねと笑う。 「どこが?」 覗き込む私に、 「世帯主の性別を書かせるの? 妻のところも性別の欄があるし。世帯主は男で妻は女でしょ。 決まってるのに、 なんかおかしくって」 表を指しながら答えた。 続柄の欄に、年齢、性別、職業、趣味と記入欄が続いている。 私はわずかに痛む心を隠し、 やんわりといなした。 「未婚の方や離婚なさった方、 死別というケースもありますから、女性の世帯主もいらっしゃるの」 それから女同士や 男同士のゲイカップルも。 そう心の中で呟く。 卑屈な感じがする。 私は、傷ついたのだろうか。 「バカだな」 傍らでお茶をすすっていた夫が、杏子の頭を小突く。 彼の愛情が、はっきりと見える。 目が合って、私はほほえむ。 彼の目尻に下降する皺が刻まれる。 古い友人は、間違いのない結婚をしたようだ。 「これはちょっと、 私わからないわ。 健次郎君バトンタッチ」 ブロックプランを作れという 広い空欄に、杏子がトントンと 鉛筆を立てた。 「リビングを南側にとか、 和室が二間欲しいとか、そういうご希望がございましたら大まかにご記入いただきたいのですが」 健次郎君と呼ばれた夫に向けて 言いながら、密かに舌打ちをする。名前からして次男確定だ。 家族構成も、 夫婦と子ども二人だけだった。 職業は「会社員」の健次郎君が、 破顔一笑して頭を掻く。 「具体的に考えられないっすね」 「では空欄で結構です。 間取りに関して 二、三質問させてください。 リビングは和室洋室どちらで、 何畳程とお考えでしょう?」 杏子が生き生きと答える。 「洋室で、二十畳ぐらいある LDK。カウンターキッチン。 あと出窓が欲しいな」 「奥様は具体的ですよ」 健次郎君に水を向けると、 苦笑いする。
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