━━片桐 杏━━

2/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 舗装もされていない道――いや、正確には道なのかすら危うい――の暗闇の中を、明かりも点けずに車は走った。  どこかさえも分からないまま車から降ろされ、暫く地下を歩き、辿り着いたのがこの建物だった。  国家の最高機密部隊。それが、片桐 杏の異動先だった。  建物へ入ると、僅かに血の匂いがした。片桐が慣れ親しんだ戦場の血とは、何か異なった感覚がした。  案内役の兵士と清潔な廊下を、部隊の最高指揮官が待つ部屋へと歩く。いつの間にか、血の匂いは消えていた。  「では、こちらで村田少佐がお待ちしていますので。私はこれで失礼します」  兵士は部屋の前で止まり、片桐に一言掛けると、礼を言う暇も無く足早にどこかへ去った。 片桐は扉を軽く叩き、入室の許可を求めた。部屋の中から「入ってくれ」と、男の声が返ってくる。  部屋は、ただ事務用の大型机や資料を保管する為の棚が、設置してあるだけの簡素なものだ。その椅子に腰掛けた、威厳に満ちた風格の男がいた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!