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私は幼い頃から好きな本があった。 でも、そうだからといってその登場人物に私がなれるわけでもなくて、 そうしたところで私に何が残ったのだろう。 高校生活を締め括った今に、開いた時間にふと思ってしまった。 何かを消化したいわけじゃないけれど、懐かしさと未練と想い出の為に私は母校を訪れた。 後輩に会わないように、日が暮れ始める時間を狙って。 ゆっくり目覚めた昼過ぎの怠惰感に包まれた、けだるい午後だった。 緩い暖かさに満ちた外は夜の準備を始めて、柔らかな涼しさを後ろ三歩に引き連れて世界を歩いていた。 帰りの学生達とすれ違いながら、まだ空いている電車に揺られて 通い慣れた道を通い慣れた時間を、逆行する気分は少しだけ気持ち良かった。 私を覚えていてくれた守衛さんの案内ですんなりと入れた校舎で真っ直ぐに机へと向かった。 私達が別れた形跡の黒板なんかはまっさらになっていたけれど、 独特の雰囲気だけがまだそこにあって、息を吸い込むと皆の息遣いが肺の中に広がる気がした。 目を閉じて座った席でおもむろに手を入れた机の中で それを見つけた私は、迷わずに封を切って震える手で、手紙を読み始めた。 静かに揺れるカーテンが徐々に到来する夕方を思わせていた。 三つ指ついて、夜の帳を潜る気分だ。 これは、深呼吸を経て、始まりで既に泣きそうな、私の手紙だ。
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