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俺は今でも分からない。
鍵付きの引き出しに、大切に保管してある手紙が分からない。
差出人が、とか返事の返し方が、とかそんな事じゃあない。
手紙はきちんと本人から手渡されたし、俺は返信に困る子供でもない。
でも、書かれている事については今もまだ分からないままだ。
あの時、呼び出された場所に行くと赤らめた顔で彼女は待っていた。
制服の下に着ている少し長めのカーディガンで手の平を半分くらい覆って
余った指先で軽く袖をつまみ俯く彼女は俺を見て、ホッとした顔を見せた。
独特の空気が溢れかえっていて、これは、と思っていたら彼女は手紙を取り出した。
息詰まるような濃縮した空間が一気に弛緩して気が抜ける。
途端に彼女はポケットから出した手紙に左手を添えて、
さっきまで袖をつまんでいた指先で俺に差し出して来た。
虚を突かれて焦りながらも受け取った手紙は心なしか熱かった。
走り去る彼女を見送って俺は近くの2、3段しかない階段に腰掛けて封を切った。
西日に透ける紙が妙にその場面を忘れない演出だと今思う。
そして、手紙を開いた俺は今もまだ分からない内容を読むことになる。
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