4通目

2/4
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
俺は今でも分からない。 鍵付きの引き出しに、大切に保管してある手紙が分からない。 差出人が、とか返事の返し方が、とかそんな事じゃあない。 手紙はきちんと本人から手渡されたし、俺は返信に困る子供でもない。 でも、書かれている事については今もまだ分からないままだ。 あの時、呼び出された場所に行くと赤らめた顔で彼女は待っていた。 制服の下に着ている少し長めのカーディガンで手の平を半分くらい覆って 余った指先で軽く袖をつまみ俯く彼女は俺を見て、ホッとした顔を見せた。 独特の空気が溢れかえっていて、これは、と思っていたら彼女は手紙を取り出した。 息詰まるような濃縮した空間が一気に弛緩して気が抜ける。 途端に彼女はポケットから出した手紙に左手を添えて、 さっきまで袖をつまんでいた指先で俺に差し出して来た。 虚を突かれて焦りながらも受け取った手紙は心なしか熱かった。 走り去る彼女を見送って俺は近くの2、3段しかない階段に腰掛けて封を切った。 西日に透ける紙が妙にその場面を忘れない演出だと今思う。 そして、手紙を開いた俺は今もまだ分からない内容を読むことになる。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!