1通目

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  1年振りに見る彼の文字はひどく懐かしかった。       癖のある右下がりの文字が、一生懸命几帳面に書こうとしていっそう読みづらくなっている。     便箋セットに入っている升目を使った形跡が最初の方に目立ち、     最後の方は感情と思い付くままに書かれていて、これもまた少し読みづらい。       でも、そんな手紙が私は好きだった。       何度か私達の関係が危うくなった時に、照れながら渡される手紙。     もう終わってしまったのに、とても久しぶりに君から届いた手紙。     流し読みを終えて、一度珈琲を煎れに手紙を置いた私は、一年振りに煙草に火を点ける。     君が置いていったそれは、しけった味を立てながら甘辛い匂いを残して静かに燻(くゆ)る。     立ちくらみに似た煙草の重さにふらつきながら、手元に珈琲を置いて燻(くすぶ)り続ける煙を眺め、私はもう一度手紙を開いた。
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