自己紹介

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「ああ、そういえば自己紹介がまだだったな」 暑い暑い夏の太陽からの日差しを少し和らげてくれる木々の中、蝉が元気良く求愛の歌を響かせ僕に不愉快な思いをさせる、この真夏の昼下がり。 男の研究員が研究所への道を歩いてる最中に、急にくるりと後ろへと振り返り、立ち止まりながら言った。 「俺の名前は 東火康寛(ひがしび やすひろ)だ。 歳は22。ヤスでいいよ」 そう言って、ヤスがニコっと人なつっこそうな可愛い笑顔を見せながら右手をこちらに出してきた。 よろしくお願いします! ヤスさん! と、言いながら手を握ると彼は、ニヤニヤしながら、ヤスでいいよと言った。 「ああ、それからこちらは……、プリンセスサダゴッッげふっ」 と、愉快なペースで女の研究員の長い髪を見ながら笑顔で喋っていたヤスが、笑みを浮かべたまま視界の左側へと消えた。 女の研究員が、喋っていたヤスの顔を、美しいと言わざるを得ないくらい気持ちいいほどの笑顔を浮かべながら、グーで殴ったのだ。 痛快。 というより、ヤスの悲鳴が凄く痛い。 「誰がそんな名前なんでしょうねっ。気になさらないでね見学者様」 いつもの事なの、と彼女は、うふっと振り返りながら笑いはしたものの、瞳の奥にあるものは決して笑っていない。 「私の名前は 島河幸看(しまかわさちみ)よ。 年齢はひ・み・つ(ハート)。よろしくね」 「妖怪オババ様でいいzふへぃっ!」 …… 音速ではないかと思える素早さで彼女の背後に登場したヤスが笑顔のまま光速ではないかと思える勢いで彼女の後方へと崩れる。 ヒョイッと彼女の背後に現れたヤスが、彼女の振り返りもせずに放った裏拳にまたまた吹っ飛ばされる様子を 僕はただただ、苦笑いしながら見ている事しかできないのであった。 まぁ、島河さんの歳もヤスと大差無いだろう。
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