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「――亮先輩!」
呼ばれて、男性――八神亮は振り向いた。どこか気の抜けた雰囲気。少し痩せ型な体型ですらっとしている。年は二十歳も終わるくらいで、すっかり大人な雰囲気を醸しだしている。
「太朗……どしたの?」
息を切らして追い掛けてきた後輩にやんわり、のんびり尋ねた。太朗、と呼ばれた後輩は亮より少し年下で小柄な体型だ。
「どしたの、じゃないですよ……。今日が何の日か忘れたんですか?」
「……たっちゃんの誕生日でも、由美の誕生日でもないねぇ。結婚記念日でもないし……」
うーん、と悩む亮を見て太朗は呆れながら言った。
「誕生日でも記念日でもないです。今日だけ、Go Ahead復活じゃないですか」
Go Ahead――かつて亮や太朗が組んでいた学生時代のバンドだった。それぞれが才能に溢れたが、諸々の事情でずっと前に解散していた。
「忘れてないよ。ただね……」
青い空を見上げ、亮は言葉を切った。
「どうしました?」
「……たっちゃんが、たっちゃんってゆーなって言い初めてちょっとショック受けてる……」
冗談じゃなく、亮は少し寂しげだった。
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