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18歳
「ただいま」
和海は真っ暗な玄関でいつものようにつぶやいてみた。
しかしやはりそこに返事は無かった。
1年前までは
「おかえりなさい。お腹空いてるでしょ?早く着替えてらっしゃい!」という母のいつもの言葉も、玄関に漂うはずの暖かい幸せな香りもそこには無かった。
和海はいつものようにスニーカーを玄関の隅っこに揃えて脱ぐと、明かりもつけず、スリッパを履き、コンビニで買ったお弁当を暖めるためにひんやりとした暗い廊下を進んだ。
誰もいない広々としたダイニングキッチンで唯一明かりが灯った電子レンジをしばらく眺めるのがここ1年の和海の日課だった。
「チン」という、押し付けがましい音が鳴る前に生温かくなったコンビニ弁当を取り出して再びビニール袋にしまい、和海は2階の自分の部屋へ向かった。
部屋の隅にある机のスタンドライトだけをつけて弁当の蓋を開ける。
梅干しと、その周りの赤い米粒をどかして、白身のフライの衣を黙々と剥がし、和海はコンビニ弁当を食べ始めた。
「あれ…おかしいな…いつもより…しょっぱい…な…」
それは涙の味だった。
和海は泣いていた。折しも今日は彼の18回目の誕生日だったのだ。
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